教科書はマリブビーチのトレーラーハウス。ロックフォードの事件メモに憧れて
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中学生の頃、ブラウン管越しに釘付けになったあの景色。 「ロックフォードの事件メモ(The Rockford Files)」は、単なる探偵ものという枠を超えて、「アメリカ」を教えてくれた教科書のような存在でした。
大人になった今だからこそふり返りたい、ジム・ロックフォードが教えてくれた「憧れのライフスタイル」と、その美学について。
砂浜の上の秘密基地:マリブのトレーラーハウス

このドラマを語る上で絶対に外せないのが、主人公ジム・ロックフォードの自宅兼事務所です。マリブビーチの駐車場にポツンと置かれたトレーラーハウス。中学生だった私の目には、それが世界で一番格好いい「城」に見えました。 豪華なオフィスビルではなく、波音が聞こえるビーチの駐車場。その「あえて選んだ世捨て人感」と「プロフェッショナルな隠れ家感」のバランスが絶妙だったのです。こんな所でこんなふうに住みたい!どうしてここは日本なんだ!そう思ったものです。
画面を食い入るように見た「机の上の小道具たち」
オープニング、電話のベルとともに映し出されるデスク周りの小道具。アメリカンな電話機。そしてメッセージが流れる留守番電話。
「自分の机もこうしたい!」と、英語が書かれたメモや外国のタバコをわざと置いてみたり。あの少し使い込まれた家具やキッチンに並ぶパッケージの色彩…。それらすべてが異国の文化への扉でした。欲しくても住んでいる田舎じゃ手に入らない。ビデオも無いので、とにかく画面に映る情景を目に焼きつけていました。
街角に宿るアメリカ:ポンティアックと路上の風景
愛車のゴールドのポンティアック・ファイヤーバード・エスプリ。 派手なアメ車ではなく、彼が選んだのはあえて控えめな「エスプリ」というグレード。
このあえて少し落ち着いた「エスプリ」を選ぶあたりに、ロックフォードの渋いセンスを感じます。彼がこの車を巧みに操り、犯人を追うシーンやカーチェイスは爽快でした。
しかし、私が本当に追いかけていたのは、窓の外を流れていく「日常のアメリカ」でした。鮮やかな赤い消火栓。信号機や道路標識。ダイナーのネオンサインと広い駐車場。公衆電話。郵便ポスト。すれ違うピックアップトラック。ポリスカーやサイレン音。
ドラマの筋書きよりも背景に映り込む1970年代のロサンゼルスの街並み、その空気の乾燥具合まで伝わってきそうな映像を、一生懸命に目で追っていました。それは中学生の自分にとっては宇宙旅行と同じくらい遠く輝かしい世界だったのです。行きたくても行けなかった。

ジェームス・ガーナーが体現した「等身大のヒーロー」
このドラマが愛され続けた最大の理由は、やはり主演のジェームス・ガーナーの人間味あふれる演技にあるのかなと思います。ジム・ロックフォードは決して無敵のスーパーマンではありません。依頼料の支払いにヤキモキする。格闘になれば普通に殴られるダメおやじ。警察(友人のベッカー刑事)には煙たがられ、親父のジョゼフには説教される。そんな「不完全な大人」だからこそ、私たちは彼を身近に感じ信頼を寄せることができました。
皮肉屋だけど根は優しく自分の美学を曲げない。ジェームス・ガーナーが演じたからこそロックフォードというキャラクターに深みと、どこか悲哀を帯びた色気が宿ったのでしょう。
また憎めない友人エンジェルとのやり取りや父親ジョゼフとの親子愛など、登場人物たちの掛け合いもこのドラマをただのハードボイルドに終わらせない魅力でした。
ジェームス・ガーナーが亡くなった今も、彼が演じたジム・ロックフォードはマリブのビーチで潮風に吹かれながら鳴り止まない留守電にため息をついているような気がします。豪華な暮らしではなく自分の好きなトレーラーハウスで、好きなクルマを転がし自分らしく生きる。 そんな彼のライフスタイルこそ、今改めて憧れる「真の贅沢」かもしれません。
今、手の届く範囲で「あの頃のワクワク」を再現する
大人になった今、私はマリブのビーチに住んでいるわけでもなく、私立探偵にもなっていません。けれどあの頃に抱いた「アメリカへの憧れ」は、今も消えずに残っています。
完璧なトレーラーハウスは手に入らなくても、デスクの上にメモ帳を置き、アメリカンな電話機(今はインテリアかもしれないけれど)やステーショナリーなどを並べる。英語が書かれたパッケージの箱をポンと置いておくだけで、視界の端に「1970年代のマリブ」がチラつく。
あの頃ブラウン管にかじりついて見ていたワクワク感は、こうした小さな「本物の欠片」を集めることで、今も私の心の中で生き続け、コーヒーの香りがいつもより少しだけカリフォルニアの潮風に近づくような気がするのです。
中学生だったあの頃、ブラウン管の中に見た景色。 それは単なる異国の風景ではなく、「自分の好きなものに囲まれて過ごしたい」という未来への希望だったのかもしれません。
私立探偵ロックフォード、お名前とご用件をどうぞ。ご返事は後ほど。
This is Jim Rockford, at the tone leave your message and number, and I'll get back to you.
by おじさん64年式